ドラゴンクエスト

俺はドラゴンクエストを開始するが、一つ条件を課す。
命は一つだけ、つまり勇者が死ねばそれでそのソフトは叩き割られ、当然ながら買いなおしはしない。
やつらは良く死ぬ。これはよくない、よくないね。
命はたったの一つだけ、死ねばリセットなんて都合のいいことは存在しない。
最初の町の側で延々とレベルを上げる。
たった一つの間違いも許されない、死んでしまえばそこで終わりだ。
ザオリクは使えない。仲間が死んでしまえば、復活はさせられない。
ひたすら慎重に、ボスからのダメージが1になるくらいにまでレベルを上げて。
勇者と自分の命が等価に思えるくらいにまで。
気の遠くなるほどの時間をかけてラスボスに挑む。
『わしの仲間になれば世界の半分をやろう』だって?
魔王の言葉に俺は笑ってしまう。
お前の言葉は、ああ、どうしてそんなに薄っぺらいんだろう。
お前は知らない、俺の冒険を。
俺の守るべき人々を。
あの子供達の悲しみや絶望、喜びや希望を。
お前のような愚か者にこの美しい世界はふさわしくない。
さあ、終わりにしよう、この冒険を。


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俺は恋を開始するが、一つ条件を課す。
この一つの人生に対して、恋は一度だけ。
つまり彼女を手に入れられなければ、俺は生涯恋人も持たず、当然ながら結婚もしない。
やつらは良く付き合い、よく別れる。これはよくない、よくないよね。
真実の愛はたったの一つだけ、叶わなければ他の相手だなんて俺には考えられない。
会話の一語一語にも細心の注意を払う。
たった一つの間違いも許されない、嫌われてしまえばそこで終わりだ。
傷つけても言葉は引き戻せない。忘れてと言っても、忘れてはくれない。
ひたすら慎重に、心の深くに切り込めるくらいにまで関係を深めて。
彼女と自分の人生が等価に思えるくらいにまで。
気の遠くなるほどの時間をかけて告白に挑む。
『君のことが好きだ、付き合ってくれ』だって?
自分の言葉に俺は笑ってしまう。
俺の言葉は、ああ、どうしてこんなにも薄っぺらいんだろう。
君は知らない、俺の心を。
こんなひと言では到底足りない想いを。
君と過ごした時間の悲しみや絶望、喜びや希望を。
俺のような愚か者に美しい君はきっとふさわしくないだろう。
でも、どうか終わらないでくれ、この恋よ。