『文化人類学入門』まとめ


書籍『文化人類学入門』を元にまとめた見取り図と感想など。


 →http://twitpic.com/ag7nyo/full
まずは1画像にまとめた「これだけで文化人類学の大枠が分かる!見取り図」……というなんともうさんくさいしろものをどうぞ。

PDFバージョン:
http://www.scribd.com/doc/102154864/%E6%96%87%E5%8C%96%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E5%AD%A6


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 (以下はツイッタ向けに書いたものなので細切れになってます)

①モース『贈与論』

■モースの贈与論から、地域通貨について語られる。地域通貨は、時に「商売」のようなもの、時に「贈り物」のようなもの、という語られ方をする。片方の語り方はもう片方を否定してしまうため、地域通貨は不安定なものとなる。(1)
■対応する参考文献としては:中川理「あいまいな交換―フランスのある地域交換システムにおける交換とエスニックバウンダリー」(小泉潤二・栗本英世編『場を越える流れ』所収)が挙げられている。ゲゼルを読むときに脇に置きたい。(2)
■贈与論の現代版として「ボランティア」や「国際援助」が挙げられる。ボランティアを礼賛する語り口の中に、「古き良き社会への回帰」つまり近代=経済社会の超克、という視点が含まれているという。(3)
■問題は人の行為を「無償」と「有償」に二分してしまう、せざるを得ない状況なのか。金銭の重要性、支配力は過去から未来に向けて常に高まってきたか。17世紀のヨーロッパ都市、19世紀日本農村、3世紀ローマ、18世紀の江戸や大阪、19世紀東欧の農村を比較したら?(4)
■それとも、「有償」と「無償」に二分する人々の「見方・視点」を変えることが重要なのか。地域通貨はその実践と取ることが出来る?逆に考えれば、その「見方」の変化が行われてしまえば資本主義は立ち行かなくなる、という考えは行きすぎか。(5)


②船曳先生による『親族の基本構造』についての章より

■船曳先生の項は、文化人類学入門というより「読書術」の類いになってて面白い。レヴィ=ストロースの『親族の基本構造』について、「序章の1章は精読、2章は飛ばしてもよい。一部一遍は熟読、二篇は専門的なので読めるなら……」などと続く。(船曳・1)
■スッパリしてるのが「精読できないなら読むな」という姿勢。「1度目の読書」「2度目の読書」……と分け、大抵の場合「1度目」は本のテーマをつかむのに苦労して「なるほど、噂どおりのことが書いてあった」という感想に終わってしまう。(2)
■それなら先に解説本を読んで、本の構造やテーマを頭に入れて(=「一度目の読書」をキャンセルして)から挑め、というもの。もちろん「そこまで興味が湧かない本なら」という縛りはつくけど。あるいは読書会やゼミで読むなど対策を講じる。(3)
■難しいものをウンウンうなって読む、というのも何らかの向上に繋がってる気もするので、これが全般に言えるとも思わないけれど、なじみのないジャンルならそうかもなー、とは思う。ロールズ『正議論』なんかはきっとそうだった。アレント全体主義の起源』もしかり。(4)
■あとはその「解説本」の選び方に気をつけることか。大学入って色々やった今はいくらか選定できそうだけど、それ以前の自分だとそうした基準がよく分からなかっただろうと予想する。(5)


③フランツボアズと文化相対主義

■「今日、『文化相対主義』として知られる知的伝統は、彼(フランツ・ボアズ)の主張に負うところが大きい」(ボアズ:1)
文化人類学の最初は、ヨーロッパが頂点=社会進化論に裏付けられた、ヨーロッパ文明=高度、野蛮人・未開人=低俗、というヒエラルキー形式だったのだけど、ボアズはかなり早くから、「いや、これらは『異なる』だけで優劣はないんだ」と主張した。(2)
■1911年の『未開人の心性』で「人種間の優劣をきっぱり否定した」というのだから、当時の風潮を考えればすごかったんじゃないだろうか。ボアズがドイツ出身のユダヤ人だったこともあり、これはナチス政権下で焚書になる(3)
■ここから見ると、ボアズの弟子のベネディクト(『菊と刀』の人)が、1943年に「人種主義」でナチスユダヤ排斥だけでなく、祖国アメリカの黒人種についても相対主義で論じ、発禁処分になったのも当然に思える。(4)
■何がボアズを文化相対主義へ導いたか。直接はグリーンランドイヌイットへのフィールドワークで、彼らの文化の奥深さを知ったことだが、その背景に2つ挙げられている。①彼がアメリカに移民したユダヤ人で差別に敏感だったこと。(5)
■もう一つの「祖国(ドイツ)には民族精神の独自性を説いたロマン主義の伝統が強かったこと」というのが興味深い。ロマン主義ナチスに利用されたというイメージが先行するけど、ここでは正反対に、文化の多様性を認める土壌になったとされている。(6)
■僕らに関連して言えば、ベネディクトの研究が、戦後日本のGHQの統治にどれくらい影響していたかが気になる。『菊と刀』は内容は色々と批判されるけれど、「相対主義」の視点は通低していると考えるから。今後の勉強へ。(7)