夢の民

 我々人類の宇宙船がある日ついに異星人のいる惑星にたどり着いた。
 彼らは姿形は人類とよく似ていたが、太古からある特殊な能力を受け継いでいた。
「わたしたちは、完全な夢を見ることができます。
 夢の中で自由に行動することが出来るし、それによって全ての欲を満たすのです。
 だから、争いは起こらないのです。」


 人類はこの能力に非常に感動し、なんとか自分達にもその方法を教えて欲しい、と頼んだ。
 彼らはこういった。
「ではまず、みなさまのことを教えてください。
 わたしたちはそれを知り、そしてこの夢をみる力がみなさまにも使える方法を探して見ましょう」


 そこで、人類は彼らに地球から持ってきた映像を見せた。
 異星人たちは人類に非常に強い興味を持っていたため、
 その映像は惑星中に放送されることになった。


 まず最初の日には地球の美しい自然の映像を流した。
 次の日の朝、異星人たちはいたく感動して人類に告げた。
「我々は昨晩夢の中でアルプスをのぼり、ナイアガラの滝を眺めました。
 あなたがたの星は本当に美しい!」


 次の日には、地球の音楽の演奏、それから美術作品やバレエなどを放送した。
 その次の朝、異星人たちは涙を流して人類に駆け寄った。
「我々は昨晩、夢の中でベートーヴェンの演奏に参加し、オペラのステージに上りました。
 自らの手でピカソルノアールの絵を描くこともしました。
 あなたがたの星の芸術は本当に素晴らしい!」


 しかし、その次の日の朝、異星人たちは誰も姿を現さなかった。
 不思議に思った人類が、彼らの家を訪れてみると、
 そこには血だらけになって死んでいる異星人たちがいた。
 そこだけではなかった。惑星中の異星人がその朝死んでいた。
「昨日放送したのはなんの映像だったんだ!?」
「戦争です」


 人類は、自由に夢をみる力を手に入れられなかったことを悔しがったが、
 その後、住人のいなくなったその惑星を植民地にしたことは言うまでもない。