草間彌生展に捧げるソネット

 デモクリトスは描かれた無限のドットをゴッドと崇め眺め
 胸が張り裂け叫ぶ「これこそ私の求むアトム!」
 曇りを酢で磨かれた無数のマクロとミクロの虫眼鏡束ね
 その身分け解きあまねく粒子と替えて遊ぶ、遊ぶ


 香る夜の実相は地球の隠れた九つ目の心の臓よ
 太古の戦争で開きし祖父の胸ほの昏い穴をのぞきこみ
 オールトの深層なる子宮は暮れた遠き日の真の世と
 洞穴の壁に映りし躍る影から赤い靴を盗み取り


 七重の夢から連なるベッドに落下する闇
 そのとき、かつて追い詰められたあの無限の網
 この身を羽と受け止めるセーフティ・ネット編み


 量子をあつめ並べてカボチャにし、小豆と栗と蒸すと
 料理を見つめ定めて収束するアトム・デモクリトス
 ……おや、目を見張るほどに見事なその箸遣い