それは丸い。とは言っても完全な球形ではない。

それは丸い。とは言っても完全な球形ではない。
表面はすべすべして体温より少し冷たく、手に吸い付くように気持ちよいが、
時間によって、例えば真夜中過ぎころに触れると荒地をはだしで踏んでいるかのようにざらざらしている。


大きさは10歳の子供ほどあるものから、両手の上に載るほど小さなものまで様々だ。
表面の色もとりどりだが、全体的に赤身を帯びたものが大半を占める。
赤というより桃色、桜色と言った方がいいかもしれない。
ときどき白に近いものもあるが、逆に濃い色のものは一つもない。
重さはまちまちだが持ち上げられないほどではない。
ときにとても大きなものが風船のように軽いという場合がある。
叩いてみると澄んだ音がする。
指ではじけば金属のような。
またスプーンを持ち出してそっと打てば小さなベルのような音も立てる。


一目では分からないが、虫眼鏡を持ち出せば、あるいはよく近づいてみると、
表面に小さな模様がついていることが分かる。
これも様々だが多くは曲線、それも波線からなる規則的な模様である。
外見の印象とは違って驚かれるが、清涼な匂いを持つ。
レモングラスやミントなどハーブによくにたもので、
あるものはヨモギとまったく同じ香りだと言った人もいる。
これを行う人はさすがに多くはないだろうが……舐めても何の味もしないらしい。


これがあると人はとても落ち着いた気分になる。
医学的にも多くの検証が行われ、その効果が実証されてきた。
これの側では、人の脳波が安定し、よりおおらかに、静かになる傾向があるという。
子供はこれに触れたがるが、たとえ乱暴な子供でもそれが壊れやすいことを見て取り、
決してぞんざいに扱おうとはしないため、大人が心配するようにこれが傷つけられることは滅多にない。
いささかオカルトめいた話ではあるが、これが時々自分で静かに震える、
という体験を語るものは無視できないほどに多い。
機械のような小刻みな震えではなく、もっとずっとゆっくりとした、穏やかでリズムを持つ振動だそうだ。


これに愛着を持つものは多い。
麻薬的とは言わないが、私が話を聞いたうち、全員がその言葉の最後に、
これに再び触れたい、とため息交じりにもらしていた。
それは丸く、とは言っても完全な球形ではない。