東京大学服飾団体fab exhibition  感想

 神保町のビルとビルの間の隙間、何でもないような不思議な空間で催された展示。ファッション、服飾の展示なのだけれど、今回はその「空間」、そしてその場所の「占有」ということにも(というかむしろこちらに)フォーカスが当たっているように感じます。入り口で配られたプリントにも、まず最初に「あらゆる土地の占有には意味が伴う」とある。まずはこのプリントに書かれた内容から。

①占有

1:『(一時的/永続的)な占有は、それが(合法/非合法/違法)であれ、対立がうまれることは免れない』

2:『(一時的/永続的)で(合法/非合法/違法)な占有は占拠となり、(演繹的/帰納的)に直接民主制としてのデモンストレーションとなる』

3:『(一時的/永続的)で(合法/非合法/違法)な占有』 (→これが今回の展示)

 ここまで読んで、「永続的に」「違法に」占有しようとする、という選択肢が抜けていることが気になる。最初に頭に浮かんだのは、米軍基地。砂川事件の第一審では違憲とされて、統治行為論で身をかわされた。けれど、それよりは沖縄の反基地闘争で、米軍基地内に入り込んで勝手に耕した、という話しを思い出す。アメリカの憲法の元、ロックの土地論を逆手に取って。
 しかし、非合法な占有ならもっと身近なものがあった。東大安田講堂の占拠がそれだ。この事件の最後には「一時この放送を中止します」という呼びかけで終わっている。ある人々の間では、それはまだ終わっていない。(実際にその中に居た人と話したことがある)
 そうだとすると、永続的に・違法に・占有することには、「革命」という語が当たるのかもしれない。あの小さなスペースは、寺山修司の「1メートル四方一時間国家」を思い出す。都市の中の空間を占有し、その中で原始的な営みを始める人々(かれらは半裸だった)一時間ごとにその空間は倍に、さらにその倍になる。白いフレームで区切られた土地の占有。それが外へ、外へとあふれ出していけばいいのに、と思っていた。あるいは、あの白い枠の中こそが外側なのかもしれない。

(それはそれとして、A3一枚の紙ペラを渡されたときは正直読む気をなくしてしまった。前回のパンフの感じはよかったのでちょっと残念)


②環境

 『展示のために設えられた空間は展示の安全性を保とうとするがゆえに周りの環境から隔絶され、その場所で展示を行う意味を漂白させてしまっている』『しかし、そのような展示空間も都市のうちに存在してしまう』

 逆転して介せば、今回の展示は、周りの環境の影響を受ける危険性が生じる、ということ。そういう意味では、神保町の中で「本の服」があってもよかったのでは、ということは感じた。本のページは服になりうるか、あるいは服は本になりうるか。以前、自分の小説を真っ白いスーツにプリントして、毎日山手線を歩く、というパフォーマンスを考えていたことがある。あるいは、一つの小説を、何枚ものTシャツに、別々にプリントしていく試み。世界で最も本が集まるという都市に、何かしらの接続が欲しかった。

 それとは別に、まずこの空間に足を踏み入れようとするその前、ちょうど手前のところに、隣の雑居ビルの看板があったのを覚えている。アダルトビデオの安売りを知らせる。おそろしく肌が白い女性が、1980円などの数字で切り取られた笑顔でこちらを見ていた。視線を展示場に戻すと、入り口には女性の形に切り抜かれた派手な柄の垂れ幕。それは今や、レンタルビデオ店の18歳未満禁止コーナーのあの垂れ幕にしか見えなくなってしまっていた。そうなると、中にある洋服の展示にもバイアスがかかる。半透明な服や、胸を隠すことも出来ないロープのような服(?)も、何かしらの性的なプレイの一部に思えてしまう。
 あるいは、来る途中でベトナム料理屋の看板を見ていれば、ライスペーパーの服からサイゴンが立ち上る。都市が作品に浸透し、その意味を染めていく。それは作品を「汚染」するようでもあり(たとえば僕の場合は性的ピンクな妄想で)、けれど現代アートの特徴である、「鑑賞者によって意味を完成させる」という部分にも通じる気がする。都市全体がその空間へのアプローチになる。


③言葉遊び

『われわれの行為を(合法/非合法/違法)に<デモンストレート>(de(完全に) + monstr(示す)+ate)できることになる』
 
 言葉遊びなら、こんな読み替えも出来るかも。
 demon(悪魔) + stratal(層)
 de(非) + monster(怪物)

 
④作品

"No piece of cloth"
 マネキンが二つ張り合わせてあって、両方に乳房がついていたので、これは二人でしか着られない服だと最初思ったんです。『ノルウェイの森』のミドリが、ワタナベくんと裸で背中合わせで縛られて……みたいな話を思い出したり、背中合わせでずっと生活しなくちゃいけない、孤独を強制的に避けさせるコミュニティの考えみたいなものを。
 もうこうなってくると、「裸の王様」とか、「赤外線でないと見えない服」とか色々と無茶なことを考えていました。布や裂け目でなくていいなら、ロープを大量に巻き付けたり、ミイラ男でもいいのかも。ヒモが結局股間を隠しているのは「薄っぺらな庇護から自由」になれているのか。

"Rice Paper" 
 素材感が結構好きで、それが「折り重なっている」感じが楽しい。前回見た植物の葉を脱色して作った服をちょっと思い出す。内側に野菜を用いて編み上げたシャツを着れば気分は生春巻き。
 「食べられる服」というのは、冬学期の芸ゼミでみたチャラヤンの「家具になる服」を思い出す。非常食として少しずつかじっていって、やがて半そでに、そしてノースリーブになったところを見てみたい。

 衣擦れの音がどうの、っていうのは気がつきませんでした、ごめんなさい……