芸術ゼミ 「文学」回のための準備:覚書

小説はある種のサインを送り、モデル読者を指定する。例えば「昔々……」と話し出せば、そのモデル読者は子どもとなり、大人も子どもを仮想して読む。『エーコの文学講義』より →実験文学はこのサインを送らない/読者が想定できない。● 「作品を値踏みし、点を…

五月祭 「ここに顔」 演劇「目視録」「ゆき渡り」感想

①目視録「これからね、この劇をはじめて行こうと思うんだけど」 あまりにも無造作なセリフが冒頭に来るため、まだ前説明の続きなのかと思わされる。初めに断っておくと、僕はこの劇を客観的に見ることは出来ていないだろう。出演者のうち三人と会話を交わし…

美術論:デュシャン・大ガラスのギャラリー・トーク

今日の「美術論」は駒場の大ガラスを前にしてのギャラリー・トーク。実際にそれを制作した教授(当時大学院生)が、その作品を前にして語る、という非常に豪華な機会。製作過程のビデオを見ながら、制作時の様々な苦労話や楽しかった思い出を色々と聞かせて…

ベンヤミン 複製技術の時代における芸術作品 覚書

Ⅲ「人々の知覚が変化することで、社会も変化する」 複製技術、例えば古くは印刷技術、そして写真や映画が出てくると、それらを受け取る人々の知覚が変化する、という論。インターネットを考えれば納得できるのだろうか?ネット以前の人とネット以後の人で「…

トスカーナの贋作

―①あらすじ― 映画は、ある作家が出版した本「贋作」についての講演を行うシーンから始まる。ライターらしい女性が講演を抜け出し、息子と言い争いを始める。「ママはあのジェームズ(作家)と恋人になりたくて電話番号を渡したんでしょう?」作家は、彼女と…

樋上亮ライブ@渋谷ROOTS

小学校からの友人、色々なバンド・活動を共にした樋上亮の復活ライブ@渋谷ROOTS。「5年ぶり」という言葉に驚いて、最後に見たときが思い出せないことに気がつく。5年と言えば、自分の執筆2年 + 受験勉強2年 + 大学での1年間と重なる。結婚式に出席し…

東京大学服飾団体fab exhibition  感想

神保町のビルとビルの間の隙間、何でもないような不思議な空間で催された展示。ファッション、服飾の展示なのだけれど、今回はその「空間」、そしてその場所の「占有」ということにも(というかむしろこちらに)フォーカスが当たっているように感じます。入…

東大芸術ゼミ:遠足企画『建築散歩』 その② 六本木→新浦安→舞浜

②六本木周辺 表参道を後にして、六本木までの1キロほどをひたすら歩く。炎天下の中汗をたらしつつ、これだけの大所帯では店にも入れないので、コンビにでおにぎりやらパンやらを買って路上でかじる。「体育会系の芸ゼミ」という冗談がこの間から繰り返され…

東大芸術ゼミ:遠足企画『建築散歩』 その① 渋谷→表参道

「メディアはメッセージである」というマーシャル・マクルーハンの言葉を最初に掲げておいてスタート。すぐ説明すると、マクルーハンの考えだと間違いなく「建築」というのも「メディア」の範疇に入るので、つまり「建築もメッセージである」ということが言…

劇団 姫は天蓋付のベッドで眠る 旗揚げ公演 「夢で逢いましょう/大事なお願い」 感想

以前私は夢の中で胡蝶となった。楽しくひらひらと舞っていた。自分が人間であることを忘れていた。はっと目が覚めると人間である自分に気がつく。しかし、私が夢の中で胡蝶となったのか、それとも私は胡蝶で今夢を見て人となっているのか、分からない。私と…

劇団スイッチ第二回公演「泣きたいみたいだ」感想

―脳が腐り始めたから…―ジュリエット―生殖器官の無い―永遠の処女― 死刑囚を迎え入れる刑務所で働く看守Aは、熱意ある男だった。どれほど凶悪な犯罪を犯した殺人者でも、そこで死刑を待つときになれば、もはや罪のつぐないを半ば果たした存在である。刑の執行…

劇団ふつつかもの 第二回公演『死してなお』 感想

ミスマッチのスターウォーズのBGMが鳴る中、木棺を運ぶシーンから劇は始まる。亡くなった父の葬儀のために、久しぶりに集まった四人の家族。妻と二人の息子、一人の娘。今はバラバラに暮らしている家族だが、次第にそうなった原因、父の暴力について語られ始…

劇団綺畸2011年度新人公演 Show on the Run 感想

ブラックホールに愛が吸い込まれる… 笑いあり涙ありの本格ハードボイルドSFアクションスペクタクルラブロマンス 哲学と社会問題と消えた年金問題に切り込んだ衝撃の話題作 "これは演劇版ブレードランナーだ!" (パンフレットより)● 劇団西田組の劇中劇「…

Theatre MERCURY 2011年度新人公演 「さよならを、天使に。」 感想

でもね 会えたよ! すてきな天使に 卒業は終わりじゃない これからも仲間だから 一緒の写真たち おそろのキーホルダー いつまでも輝いてる ずっと その笑顔 ありがとう (放課後ティータイム『天使にふれたよ!』)● 文芸部の6人は、卒業する先輩のために色…

OM−2『日韓アートリレー2012 『希望』感想

コンテンポラリー・ダンスの舞台。ダンスと言うには様々な小道具が使われ、四つの区切りがあるので演劇的でもある。舞台は中心が開いており、壁沿いに大量の本が散らばり、またバスタブとトイレが無造作に置かれている。登場するのは8人。4人は舞台の周囲…

UT-ESS-DRAMA Spring production2012 "Funny Money"

東京大学ESSドラマ・セクション「ファニー・マネー」を観劇。 原作はイギリスの劇作家レイ・クーニー、初演は1994年だそうです。 主人公ヘンリーが取り違えてしまったスーツケースには大金が。スペインに高飛びしようとする彼と、慌てる妻、そこにヘンリ…

劇工舎プリズム 2011年度新人公演 『ユニコーン恋愛方法論』 感想

『いつも変わらなくてこそ、ほんとの愛だ。一切を与えられても、一切を拒まれても、変わらなくてこそ』 ―ゲーテ(『四季』夏の部から) 恋愛を描いた劇ではなく、「恋愛とは何か」を問いかけるいわば「メタ恋愛劇」 突如木から転落してきたTOKIOは、自分が10…

ジェンダー論勉強会のお誘い(東京大学・駒場)

こんにちは、始めまして。文科三類2年のオキタと申します。 この文章はジェンダー論に興味・関心のある、主に東京大学の学生に向けて書いています。 まずはこの勉強会に興味を持っていただきありがとうございます!企画立ち上げの経緯・日時・内容を紹介さ…

『Limits of Control』 (ジム・ジャームッシュ監督) 批評2

Ⅱ:ウィリアム・ブレイクの「クリエイター」 から ランボーの「ヴォワイヤン」へ●裏切り者は誰? 工藤夕貴演じる「分子」が最後にこう忠告する。 「私たちの中に仲間じゃない者がいるわ」 この言葉は、彼女の必死な表情と共に強く印象に残る。この先に待ち構…

『Limits of Control』 (ジム・ジャームッシュ監督) 批評1:LOC as RPG

1:LOC as RPG ●ロール・プレイング・ゲーム >あなた は ギターケース を しらべた >『ギター の げん』 を てにいれた! 映画が始まってしばらくしたころ、「この『たらい回し』をどこかで知ってるな」と感じ始めて、思い当たったのがRPG、特にド…

【東大の学生向け:進学振り分けに関して僕のやった下調べについて】

●おことわり 1:進振りの点数・手続きについてのものではありません。どのような学習が出来るか、ということを調べ、志望先をはっきりさせることが目的でした 2:僕は『教授』にフォーカスした下調べを行っていますが、友人から教えてもらった『シラバスを…

tomorrow―明日―

昨日の『tomorrow―明日―』がまだ心に残っているので少し。 黒木監督の「戦争レクイエム三部作」これは『tomorrow』『美しい夏キリシマ』『父と暮らせば』の順で見ると良いと思う。 「死んだ者の話」「生き残った者の話」そして「死んだ者と生き残った者の話…

劇団綺畸 冬公演『吐水密室』感想

●「期待を裏切らない」作品 「あー、面白かった!」 劇を見終えた第一声がこれです。劇場の出口をくぐりながら、(これは感想を書くのが難しいぞ……)と首を捻っていました。 一言でいえば「期待を裏切らない」作品だった。しかし「よい意味で期待を裏切って…

東京大学服飾団体fab 『Mode & Science Fashion event via 1.43』

●東京大学服飾団体fab 『Mode & Science Fashion event via 1.43』 自主芸術ゼミの友人たちと、人生初のファッション・ショーを見てきました。舞台は剥製に囲まれた博物館の中。 この日、ショーが終わったあとこんな話をしました。 「考えてみれば、あの場所…

『幸福の惑星』 劇団ハーベイ・スランフェンバーガーの見る夢 感想

こういう作品って、なんて呼べばいいんだろうか?小品?確かに演劇以外の何物でもないし、かといって前日に見たレ・ミゼラブルとは全く異なる形式のものにも思える。ほとんど動きは無いが、「朗読劇」というジャンルともやはり異なる。「朗読劇」の場合は、…

Theatre MERCURY 「冬に歌う、夏のほにゃらら」 感想

■はじめに 前回のプリズム、またこれまで駒場で見てきた演劇に比べれば、今回の感想は辛口にならざるをえない。まず第一に演技・会話のテンポの悪さが非常に目立つ。バンドで言えばチューニングやリズム・キープに当たる部分で、これを指摘されるということ…

劇工舎プリズム 『Nightfall』 感想

■開演前と舞台設定 二つに分けられた客席、片側からでは見ることの出来ないシーンがある、という舞台装置は、寺山修司の「百年の孤独」を思い出させます。これは舞台が4つあり、その全てで並列的に物語りが進行していく。観客はその間を行き来して、自分の…

自主芸術ゼミ(仮)開催のお知らせ

始めまして。文科三類一年のオキタと申します。この文章は、冬学期の『儀礼・演劇・スポーツゼミ』のセレクションに落選したみなさま、またその友人のみなさま宛てに書かれています。まずは興味を持っていただきありがとうございます!企画立ち上げのきっか…

10月4日 トークセッション

10月4日に開催された第三回のトークセッションの記録です。今回のお題は ・思想地図βvol.2 『災害の時代と思想の言葉』(P94〜) ・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』第四章「力の探求」 の二篇。ここでは主に前者についての話について書いています。 ■①…

8月30日 トークセッション

●前書き● 8月30日に開催されたトーク・セッション二回目です。今回は先立ってサイードの『知識人とは何か』の第一章を配って、そこから発展させる形で4時間ほど話しました。一万文字弱、そこそこ長いのでご注意。 ①最初の提言:冒頭で語られる二つの思想…